問1
これは、ある殺人事件の現場図である。フロント・ガラスには弾痕が二つあり、車の中の男は、左肩を射貫かれている。右手にはピストルを握りしめ、死ぬまえに一発発砲していた。向かって右の弾痕が犯人の発砲によるもの、左側が、殺された男によるものである。この男を撃った男は、現場にぼうぜんと立ちつくし、つぎのように証言した。
「私が撃ったのは完全に正当防衛。街を歩いていると、この車の中からとつぜん発砲されたので、夢中で応戦したまでだ」 この証言は信じられるか? (制限時間・15分)
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答
信じられない。理由は、フロント・ガラスの弾痕を見ればわかる。証言した男のピストルの弾痕は、向かって右側のものだが、右の弾痕のひび割れのところで、左側の弾痕のひび割れが止まっている。これは、右のひび割れができたのちに、左のひび割れができたことを示している。車の男は、左肩を撃たれ、残る右腕で必死に応戦したものと考えられる。
教訓
推理の鍵となっているのは、なにも特別な知識ではない。その平凡な知識に、いかにこの問いの本質を結びつけるかが問題なのである。二つの重なった足跡を見て、両者の時間的前後関係を問われたとしても、わからない人はいまい。それと同じことである。
問2
十階建てのビルの八階に用事があるのだが、あいにく停電でエレベーターが動かない。一階から階段を上り、四階まで来るのに四十八秒かかった。同じペースで八階まで上がるのに、あと何秒かかるか。 (制限時間・20秒)
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答
六十四秒。四十八秒ではない。四階まで四十八秒だからというので、八階までのあと四階も四十八秒と考えるのは性急にすぎる。一階から四階までに階段は三回しかない。とすれば、一階ごとに十六秒かかっているはずである。
教訓
私たちの心理的空間の中では、生活の基盤となり、基盤系となっている地面は、そのまま0(ゼロ)階であるという意味をもっている。そのために、八階すなわち四階の二倍という無意識的レベルでの計算の誤りに、どうしても落ち込みやすい結果となる。あなたの場合、はたして、正解への道筋をすぐ見つけ出せたただろうか。客観的世界と心理的世界とのあいだにあるギャップに、すぐ気づくことができただろうか。その点をよく吟味していただくための問題である。
多湖輝先生の「頭の体操」より
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